エヌ・ワンハンドレッド 大井幸衣さん No3

 

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「100年たってもずっと好きなものを」
とカシミヤを中心としたブランド「エヌ・ワンハンドレッド」を
立ち上げた大井幸衣さんに
ビジネスとお金にまつわるお話を伺っています。

 

大井さんは転職後、まずはイギリスに住むマーガレットハウエルさんと
直接打ち合わせをしたいと考えました。
「入社すぐの社員は海外出張には行かせられない、って言われたんですが
『私、以前の会社でもらった退職金があるから、会社のお世話にならないので
行かせてください』って言ったら、その言い方が気に入らないって
叱られてね〜 笑」

そうやって、7か月後にようやく実現した出張で、
大井さんはマーガレットさんの家に行ったり
料理をご馳走になったり、一緒に出かけたり。

「本当に素敵だったんですよ。
この人にはかなわないって、思いました。
そして、おじさんたちにはわからないかもしれないけれど、
私が見て、触れたこの感動を伝えれば、
きっと日本の女性たちだったらわかってくれる、って確信したんです」

すぐにやるべきことは、その感動をスタイリストや
女性誌の編集者に伝えることでした。
洋服だけでなく、マーガレットハウエルという人の
ライフスタイルやインテリアなどの「丸ごと」を
ブランドイメージにすることにしたのです。

 

 

同時にオフィスでは、
プレスの体制をきちんと整えました。

「当時の会社のプレスは、営業の男性が片手間にやっていただけ。
だから、卸先のセレクトショップの人が勝手に
雑誌に貸し出しをしていたんです。
それで、『私がプレスの窓口になります。
今後はうちで貸し出しをしますから、直接はやめてください』って
入社早々、いろんなショップにネガティブな電話をすることから
仕事が始まりました。そういうの、得意だから(笑)」

こうして、人気女性誌で16ページにわたって
イギリスロケをして、マーガレットハウエル特集が組まれたりと、
露出が増え、いつしかブランドは若い女性たちの憧れとなり
ブランドが育っていったというわけです。

 

「マーガレットとのものづくりをする上で、原価率は、すごく考えました。
でもね、時には『これは絶対作りたいから、原価率がちょっと高くてもやろう』
と思うものもある。
自分で絶対欲しいと思ったら、めちゃめちゃ高い上質な素材も
たくさん使いました。

余談ですが、私『社販の女王』って呼ばれていたんです。
自分が作ったものが大好きだから、社販ですご〜くたくさん買っていましたね。

少しずつ自分の意見も通るようになって、
やがては、やりたいことができる環境になってきました。

最初は、転職して、なかなか思い通りにものごとを進められない
もどかしさがありました。
それがひっくり返せたのは、
やっぱり、私が企画、デザインしたものが『売れた』からです。
だから、すっごく楽しかったですよ。
やっぱり「売れる」ってとても大事。

その後、いろんなブランドを手がけてきましたが、
いつも思うのは、
利益が出ないと誰も幸せにならないってこと。
工場さんだって、素材を供給してくださる方だって、
『売れた』っていうことで、きちんと利益を得ることができます。
それを、買い叩いて安くするとか、
絶対にやっちゃいけないことだと思っていますね」。

 

これが、大井さんが30代の話ですから、
その聡明で、度胸があり、行動力も、応用力も抜群なことに驚かされます。

そして私は、この大井さんの「自信満々っぷり」が大好きなのです。
自分の頭できちんと考え、計画し、やってみて、結果から学び、
微調整して、また新たなステージの計画を練る。
その確かな積み重ねによって、培われた自信は
お話を聞いているだけで、きっぱりとして、清々しくて、気持ちがいい。

ビジネスにおいて、何が正解かはなかなか確信が持てないものです。
でも、その確信は、どこか遠いところではなく、
自分が踏み出す一歩にある……。
わからない。
自信がない。
と逃げないで、できるところから始めてみる。
文字で書くと当たり前のように思えますが、
リアルな大井さんのお話を聞いていると、
その確かさを思い知るのです。

次は、いよいよ「エヌ・ワンハンドレッド」誕生のお話を伺います。


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