やってみないと本当のことはわからない。 広川マチ子さん vol2

 

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吉祥寺で、ヴィンテージ生地や雑貨の店「Socks」、「Socks*ciao」を
その後、現代アートを展示する「A-things」、
セミオーダーの服を中心とした「A-materials」を営んでいた広川マチ子さんに
お話を伺っています。

幼い日、絵画教室で、人生の師、節子先生に出会ったマチ子さん。
その後美大に入学しましたが、
「絵描き1本じゃ面白くないぞ!」「やりたいことがいっぱいあるぞ!」と思い始めたのだとか。

「私は、絵画科に入ってしまったけれど、映画や写真にも興味があるし、
テキスタイルも好き。
そもそも、大学を決めるとき、子供の頃から本を読むのが大好きだったから、
文学部に行こうかとも考えたんです。
でも、フランス文学なのか、ロシア文学か、英米文学科かと
ひとつを選ばなくちゃいけないのが窮屈で。
私は全部好きだったから、やめたんですよ。
何か一つだけに縛られるのは好きじゃない。
いろんなエキスをいっぱい吸収して、映画もいっぱい見て、洋服を楽しんで、
全人類が培ってきた文化の恩恵をいただいて、
私はそれを自分らしく咀嚼して、生きていたら面白いだろうなあって。
だから、どんな職業がいいかな?なんて答えられないと思ったんです」。

 

なんだかマチ子さんのお話を聞いているとクラクラしてきました。
小心者で怖がりの私は、
何かが決まっていないと一歩が出せないし、
どこを向かって歩いていけばいいかを決めないと安心できない、という性格ですから……。

「だったら、どうやって歩く道を探したんですか?」と聞いてみました。

「あのね、これは、今振り返って本当にそうだと思うんですけど、
何がやりたいのかは
やってみないとわからないのよ。
わからないからこそ、やってみる。
ただし、やりたくないことは絶対にやらない。
風が吹いてきて、
直感がピピット動いたら、それをやってみるんです」。

 

確かに、どんなに考えても、コレという答えなんてないのかもしれません。
やってみないとわからない。
それは、私もこの年齢になってやっとわかってきたことでした。

 

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美大卒業後、マチ子さんは7〜8年間はアルバイトをしながら、
本を読み、映画をみて、「吸収の時期」を過ごしました。

「私の両親は、女の子だから……とか、もう何歳なんだから………
とは全く言わないリベラルな人たちでした。
そのことを、本当に幸せだと思いますね。
おかげで私は自由に伸び伸びと、
ご縁があってきた仕事は拒まず、
去るものは追わず過ごすことができましたから」とマチ子さん。

そんな中で声をかけられたのが、
西武百貨店でのコーディネーターとしての仕事でした。
「西武百貨店の人形売り場をリニューアルするのに、『何かアイデアを持っている人はいない?』
と聞かれた、という知人からから紹介されたので、
急遽「コーディネーター」っていう名刺を作って会いに行ったんです(笑)
私、口が上手いですから!
『色々なアーティストに「ヒトガタ」というテーマで作品を作ってもらえば面白いと思いますよ』
って提案しました」。

 

その上で
「『それで、ギャランティーは?』って尋ねたら、
『いやいや、そんなつもりはない』って言われたので、
『だったら、今のお話しはなかったことに』って帰ろうとしたんです。
そうしたら、予算をひねり出してくれました」と笑います。

 

そんなギャランティの交渉までしっかりなさるなんて、なんだか意外でした。
やるべきことはきちんと筋を通す。
それもマチ子さんの一面です。

こうして手がけた人形売り場は大評判を呼びました。
2週間に一度展示替えをし、1年後には30名の作家を一堂に集めて
池袋西武の8階の催事場を使い「第一回創作人形展」を開催。
その様子が新聞で紹介されると、
当時、西武百貨店社長だった堤氏のお母様が見にいらして、
マチ子さんはご案内役を仰せつかったそうです。

そんな実績を耳にした百貨店の本部から
「評判になったあのコーディネーターに会いたい」と連絡があり、
マチ子さんは、本部の商品企画部で週2回のアドバイザリースタッフとして働き始めることに。

 

当時マチ子さんはまだ30代はじめ。
「自分のやることに、どうやって自信を持ったのですか?」と聞いて見ました。

「私は直感的な人間ですが、
同時に理論派なので、どうしてこれをいいと思うか、
どうしてこれをやりたいのかを言語化し論破できたんじゃないかな。
そんな力は哲学や芸術、文学まで、本を読むことで培いました。
目に見えない感覚は、過去の天才たちの叡智を知ることで磨くことができるのかもしれません。
私ね、本屋さんに行って、興味がある本は徹底的に読破したんですよ。
学ぼうと思ったら、いくらでも学べますからね。
一生懸命生きてきた科学者、文学者、芸術家、生物学者…….
いろんな人の叡智が詰まっていますものね」

 

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そして、この西武百貨店時代に、マチ子さんは一回り年下の今の連れ合いと出会うことになります。
その出会いのお話はまた次回に。

 

撮影/清水美由紀
着付け/大野慶子


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