ビジネスピープルからの贈り物

「未来」のために「今」やることを決めない。「SA-RAH」帽子千秋さんその4

7v0a1375

 

愛媛県大洲市で、リネンやコットンなど天然素材を使った洋服を作るショップ「SA-RAH」を
営む帽子千秋さんにビジネスについてのお話を伺っています。

 

「SA-RAH」の洋服は、お店に並べる前に必ず一度水洗いをするのだそうです。

「日常にどんどん着ていただきたいんです。
泥んこの子供を抱きしめても、いいよいいよ洗えばいいから……
という服でありたい。
最初に洗っておくことで、皆さん気がラクになるんですよね。
洗いっぱなしのシワごと見てもらったら、安心されるみたい。
買って帰って洗ったら縮んじゃった、みたいなこともないし」と帽子さん。

 

お店をオープンすると決めた時、縫製工場を契約をして、
生地をロールで渡して縫ってもらうことにしました。
「サンプルは私が縫っていたけれど、私は縫製のプロではない、ということはわかっていました。
私の縫い目の洋服を着てほしいんじゃない。
信頼を持って着ていただきたいから、プロの方にお願いしました」。

縫製が上がってきた服を洗って干した後には、必ず検品をします。
近所に住む知り合い2人にアルバイトで検品をお願いしていたら……。

「私ね、人を雇う時に履歴書も出してもらわないし、
その人が今まで何をしてきたかなんて質問もしないんです。
2人が楽しそうに検品をしながら話しているのを聞いていたら
『ああ、この脇はこっちに倒したらゴロつかないのにね〜」と
縫製のプロのような会話をしていました。
『ねえ、ねえ、二人とも、今までなにしてたん?』と初めて聞いてみたら、
なんと隣町の縫製工場で、某有名ブランドの服を縫っていたのだとか。
子育てとの両立が大変で辞めたそう。

『ねえねえ、今縫いたい気分?』ってきくと
『え〜、縫いたい、縫いたい!』ってことになって。

じゃあ、ファクトリーを作ろう!
と自宅の隣にプレハブ小屋を建てて、
もう一人、パタンナーの子と3人で『SA-RAHファクトリー』を作りました」

今では、一部外の縫製工場に出していますが、ほぼ自社で
縫製から販売までを手がけるようになったそう。

こんな風に、帽子さんは「誰かの得意」を見抜いて、それを生かせる「場」を作ることがとても上手。
そしてこれは、ビジネスで成功している「社長」と呼ばれる人に共通する
「人を生かす力」のように思います。

 

7v0a1259

 

帽子さんならではのスタッフへの接し方があります。

「みんなに、おしゃべりしながら楽しい気持ちで縫って、って言っているんです。
黙々縫って、10枚できました、っていうより、
おしゃべりしながら、今日は8枚
っていう方が、いいと思っているんです。

仕事より子育てを優先してもらいたいし、
参観日も行きたかったら行ってきて、と。
小学校5年生の参観日は、遡っては行けないよ、と伝えています。

そんな仕事のやり方で、どこまで私が生きていけるかを実験中なんです。
実験って、中途半端が一番ダメなんですよね。
とことんやってみて、ああやっぱり無理!となったら、
ギアチェンジができますから」

 

そんな「SA-RAH」の服は、東京に2店舗、松山、徳島と取扱店が広がっています。
でも、「私は卸しはしないんです」と帽子さん。

「全て委託販売です。
だから、預けて縁がなかった服は、全て戻ってきます。
だって、卸して売れ残った洋服を、セールで売るなんて、
洋服がかわいそうじゃないですか?
私にとっては、自分で作ったのは全部大好きな服だから、
戻ってきても嬉しいんです。
でも、また絶対にどこかで縁は結ばれるはず。
流行り廃りでは作っていないので……。

SA-RAHの服は、私にとって子供のようなものだから、
息苦しい経済の流れで動いていくんじゃなくて、
本当に心地いい、ちゃんとした対価のもとに行くやり方を実験中なんです」

 

7v0a0856

 

実は、昨年松山市内に、「SA-RAH est」をオープン。
たまたま知り合いの陶芸家、杉浦史典さん、綾さん夫婦が住み始めたビルの1階を
シェアする形でオープンしました。
ワンフロアーの一角が史典さんのアトリエとカフェ。
その横が「SA-RAH」の店舗です。

さらに、2008年から、そのシーズンのカタログをムービーにして紹介。
なんと去年は、クロアチアロケへ。
「たまたま、クロアチアの国立バレエ団で活躍されていたモデル、タラさんと知り合って……。
SA-RAHの洋服を着てくださっている姿がとても素敵だったので、
ムービーのモデルをお願いしたんです。
だったら、クロアチア、行っちゃう?ってことになって(笑)」

_mg_0411

カメラマン、モデルとともに海外ロケに行くなんて
まさに「お金を見ていない」帽子さんだからこそできること(笑)!

帽子さんは、こんな風に語ってくれました。
「私ね、主婦をずっとやってきたから、
夫の給料が20万円で、じゃあ食費が月3万円で……と
ずっと家計をやりくりしてきたんです。
家計簿を毎日つけていたわけじゃないけれど、
今月はあと5日を三千円で過ごさなきゃ、とか
そういう肌感覚はずっとあったんですよね。
だから、いきなりポルシェ買おうなんて絶対にしない。

ムービーの制作は、お金はかかるかもしれないけれど、
みんなが面白がってくれれば、
その時の数字にではなくて、あとから返ってくるんじゃないかなあって思っているんです。

身の程を知っているから、
ちゃんと自分たちの力でどこまでできるか
その振り幅を感覚でわかっているような気がします」

 

7v0a0836

 

未来のことは考えない、という帽子さん。
「5年後、10年後にどうしたい、とかまったくないんです。
今の積み重ねが、未来を作ると思っているから。
未来のために「今」やることを決めたなら、明日死んだら後悔するじゃないですか?(笑)」

 

今回、帽子さんのお話を伺う中で、何度もでてきたのが「実験中」という言葉でした。
やりたいこと、楽しいこと、お金のこと、経営のこと。
その優先順位や、バランスは、頭で考えているだけではわからない……。
まず、やって、その結果を見て、次にやることを考えればいい。

「実験中」ということは、失敗するかもしれないということです。
でも、帽子さんはそれをちっとも怖がっていませんでした。

むしろ「実験って、振り切らないと結果が見えないと思うんです」と語ります。

失敗しないように、とまだやり始めていないことの解決策を練るよりも、
どんどん失敗して、そこから学ぶことの方がずっと大事……。

 

「お金を見ない」という帽子さんのお店の経営は、
一見無謀のように思えるけれど、
実は、とっても「ビジネス的」なのではないかと思いました。
大事なのは、自分がワクワクすること。
お金によって、そのワクワクがしぼんでしまわないように……。
それは、ビジネスの軸をブラさないということ。

 

お店でコンサートを開いたり、
大洲の街を丸ごとプロデュースしてお祭りを開いたり、
「私が大洲にいなくてもお店が回っていくか実験する!」と公言して、
1か月近くオーストラリアへ行ってしまったり。
相変わらず、帽子さんはいつ会っても楽しそう。

 

「やってみたいこと」の種を手にしたとき、
不安や心配にとらわれず、陽の光が当たる方へと歩き出せば、
きっとうまくいくのかも……。

帽子さんの「実験」に私も参加したくなりました。

 

撮影/近藤紗菜

 

 

You Might Also Like