美しきワガママンたち

コアコア 久文麻未さん 最終回 悲しみの中にもワクワクの種を見つけることができる。それがワガママンの強さ

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ソーイングと手芸のユニット「Quoi? Quoi?」のデザイナー、久文麻未さんのご紹介も最終回となりました。
Vol4では、出産後、膠原病を発症。
友達の力を借りて、少しずつ立ち直った様子を伺いました。

体力が回復するにつれ、少しずつ仕事を再開したという久文さん。
岡田美里さんの手芸教室「アトリエミリミリ」や、知り合いの刺繍作家さんの教室を手伝ったり、
作品を縫ったり、後輩が勤めていた会社に、作ったバッグを卸したり。

「あの頃は、何かをやりたい、ってずっと思っていましたね」。

ちょうどその頃、「do family」のOG会で、再会したのが、後に「Quoi? Quoi?」を一緒に
立ち上げることとなった三代朝美さんです。

「彼女はパターンをひくことができるので、二人でユニットを組み、好きなものを作ろう!
と意気投合したんです。私がデザイン画を描いて、三代さんがパターンを起こし、私が縫う、という
ちょうどいいパートナーになってくれました。
私たちね、べったり一緒には仕事をしないんです(笑)。
三代さんが子育てで手が回らなかった3年間は活動休止だったし。
その間は、自分で小物を作って自分の仕事をしていました」

さらに、少しずつ自宅で手芸教室も始めました。
「20年以上続けて通ってくれる人もいるんですよ」と久文さん。

そんな活動を知り、なんと文化出版局から「本を出してみませんか?」とのオファーがきました。
こうして、生まれたのが初めての著書「デイリーウェア」です。

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洋服を手作りするための本ですが、その写真の美しいこと!かっこいいこと!
まるで海外のファッション雑誌のよう。
それもそのはず、スタイリングはなんとあの岡尾美代子さんなんですから!

これを機に雑誌の連載など、少しずつ仕事が増えていきました。

ところが…….
10年前に突然離婚。
久文さんは、一人になって自分で食べていかなくてはいけなくなりました。

「家を出る前に、いらないものを処分していたら、元夫のお給料袋が出てきました。
私、捨てられなくて、ずっと取っておいたんです。
処分しようと思って取り出したら、袋の中から1円玉がポロリと転がり落ちました。
それを見て、初めて泣けましたね。
ああ、お給料をもらってきてくれて、ありがたかったんだなあと思って。
この家を出たら、私は一人で生きていかなくてはいけないから、
2度ともらえない1円なんだなって」

それからが大変。
これからは、夫の助けもなく、たった一人で生きて稼ぎ、生きていかなくてはいけません。

「実家に帰って父に相談したんです。
両親は、なんとなく気づいていたと思うんですが、
帰ったら、母が『まずはご飯食べなさい』って言うんですよね。
こんな時にご飯なんて喉を通らない……と思ったけれど、「まずは食べろ」って……。
今でも覚えています。ご飯と明太子だけを食べてから
『私、離婚したいの』と言いました。
そうしたら、父が「お金の心配はしなくていい」と言ってくれて。
手渡してくれたお金で、家も借りれたし、教室も再開できたし、自宅で撮影もできました。
本当に感謝していますね」

 

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そして、ソーイングの仕事だけでは食べていけないので、
夜は知り合いのスナックでアルバイトを。

「私ね『離婚したいんだけど迷っていて……』と言っている人は、ほとんど離婚しないと思うんです。
決心すれば、何も言わずに離婚しちゃうと思う。
そして、仕事なんて選ばないと思う。
生きていくってそう言うこと。
ひとつひとつ乗り越えていくと、必ず前へ進むことができます。

スナックでアルバイトを始めたのは、ちょうど夏でした。
夜中の2時から3時頃まで仕事をして、帰れなくなったお客さんと近くのお店で朝まで食べたり飲んだりしてね。
スナックのママが自転車を買ってくれたので、
終わると、かっ飛ばして帰りました。
すると、夏の空き地にいっぱいいろんな花が咲いていて……。
私の大好きなヤマゴボウもワサワサと育っていて、
ごっそりそれを切って持って帰って部屋に飾ったなあ。
あの夏の朝の風景は、一生忘れられないと思います」

 

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そんな大変な時期だったにもかかわらず、引越しが終わり、初めて迎えた夜……。
「うちは古い一軒家で和室なんです。障子の下にガラスが入っていて、
そこに、一人でご飯を食べている自分の姿が映っていました。
それを見て『ああ、本当に今夜から一人なんだなあ』と思った時、
『寂しいな』なんて、これっぽっちも思わず、
『やった〜!、楽しいな〜』って思ったの」と大笑い。

 

これこそ、久文さんが「ワガママン」である証。
誰かに幸せにしてもらわなくても、ちゃんと自分のお楽しみを自分で作り出すことができる…。
悲しみの中にも、ワクワクの種を見つけ
苦労の中でも、美しい風景を見ることができる……。

優等生体質の私が思っていた「人生の成功」という絵図しかなかったら、
こうはいかなかったと思うのです。
人生にはいろんな道があります。
あっちの道がこっちの道よりすぐれている、なんて言えない。
どの道にも、必ずその脇には花が咲き、上を見上げれば青空が広がり、いい風が吹く……。
それを味わうことこそ、人生のお楽しみ。
久文さんにそう教わった気がします。

一人暮らしを始めて今年で10年目。
だんだん教室の生徒さんも増え、最近では、ワークショップに呼ばれることも
多くなりました。
今でも、吉祥寺のハモニカ横丁のスタンドバーでアルバイトを続けています。
「店主が役者なので、お稽古や舞台や地方公演でいない時に、定期的にお店に入っています。
いいお店なんですよ。これも、私の好きな仕事の一つなんです。
生活は安定しましたね。本当に感謝しています。
自分が真面目に頑張れば、ちゃんとみんなもわかってくれるものなんだって。
まだ先は見えないけれど、もう前しか見てないですね。
今がすごく楽しいんです」。

辛い思いをした人ほど、感謝の心が厚くなるように思います。
そして、感謝ができる人の毎日は、何よりも幸せだなあと感じます。

「ワガママン」は、損得や能率を計算しない分、
きっと傷つくことも多いはず。
自分がやりたいことしかやらない……。
その強さは、時に痛みになって跳ね返ってきます。
でも、適当にごまかして、周りの人に歩調を合わせ、
なんとなくうまくやり過ごすより、
跳ね返ってきた痛みを「イテテ」と味わうことで、
人のありがたみを心底感じ、
ほんの些細な喜びを「幸せだなあ〜」と味わい尽くすことができるのかも。

この連載を読んでいただく度に、久文さんは
「一田さん、ありがとう!本当に感謝します!」と喜んでくれました。
その感謝の深さを感じる度に、
私も、正直に生きようと
暖かい強さをおすそ分けしてもらった気分になったのでした。

 

 

 

撮影/清水美由紀

 

久文さんの新著「ずっと好きな服」(文化出版局)は、
「ペプラム」「ボートネック」「台形スカート」「サロペット」など、
久文さんと三代さんの大好きなディティールやアイテムをセレクト。
丈や幅を変えることで、シルエットが変わったり、パーツをプラスすることで
アイテムが変化していきます。
写真もとても美しいのでぜひ手にとってみてください。

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