環境で自分の能力を拡張すべし!

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今はもう絶版になってしまった、私が2007年に出した「一田食堂」という本があります。
わが家のご飯や、器の話を1冊にまとめたものです。
実は、この本を見るたびに思い出す、苦い経験があります。

 

私にとって3冊目になるこの本は、「誰かを取材して書く」のではなく
初めて、「自分のことを書く」ものでした。
私は、ものすご〜く張り切って、
書き始めた頃は、ものすご〜く小洒落た文章を書いていたのです。
そうしたら、この本を企画し、編集を担当してくれた大先輩に、ひとこと言われました。

「文章が、気持ち悪い!」

は〜〜???

 

私はものすご〜く傷ついて、泣いて、悩み、
それが落ち着いたら、今度はフツフツと怒りが沸き起こってきました。

 

「なに〜〜〜!!
気持ち悪いだって?
自分の本に、自分が好きなように書いてなにが悪いのよ!」って。

 

今だからよ〜くわかります。
私は、私以上になろうとし、
洒落た文章で、自分の日常を無理やり「素敵に見えるように」
粉飾しようとしていた……。

 

私も、今、誰かが書いたものを読む時、
一番読み心地が悪くなるのは、
自意識過剰な文章、独りよがりの文章です。
(私自身もそうならないように気をつけなければ……)

 

誰かに何かを伝えるために、文章を書くとしたら
「ありのまま」でいい。
逆にいえば、
「ありのまま」が大したことなければ、なにも伝わらない。

 

「一田食堂」は、書いているうちに軌道修正ができ、
私は、この本で「飾らずに書く」というテクを覚えました。

あの時、本音で「気持ち悪い!」と言ってくれた先輩に
本当に感謝しています。

 

と、このようなことを思い出しのは、
今読んでいる森田真生さんの「数学する身体」で
面白い事実を知ったからです。

 

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(お風呂で読むのでちょっとブヨブヨ……)

 

1995年にマサチューセッツ工科大学でマグロのロボットを作るプロジェクトがあったそう。
時速80キロというとてつもなく速いマグロの泳法の秘密を解明しようと
する中で、面白い仮説が浮かび上がりました。

「マグロは自らの尾びれで周囲に大小の渦や水圧の勾配を作り出し、
その水の流れの変化を生かして、推進力を得ているのではないか、というのだ」 (本文中より)

 

このことを、森田さんは、こんな風に解説していらっしゃいました。
「マグロにとって周囲の水の流れは、運動のためのリソースであって、障害ではない」

 

なるほど〜!
私たちが、自らの筋肉や、頭脳や、意思や、心で何かをしようとしても
それには限界があります。
それよりも、今じぶんがいる世界の波に上手に乗ることが大事……。

何かを変えたいなら、自分を変えるんじゃなく、自分の周りの環境を変えた方が早道。

何かを変えたいなら、周りの環境を「見る目」を変えた方がもっと早道。

 

もしかしたら、私はあの「一田食堂」を最初に書いていたころ、
一生懸命水に逆らって、より速く泳ごうと手足をブンブン回して、
それでも進まなくて、ボロボロになっていたのかもしれません。
本当は、その水が、泳ぐことをもっと楽に、もっと速くしてくれたのかも
しれないのに……。
うちで、ほうれん草を茹でて胡麻和えを作るっていう話でいい。
ごぼうを叩き割って、素揚げにしたら、めちゃくちゃ美味しいんだよ〜っていうことだけでよかった。

ちょっと見方を変えれば、私の周りにはいろんな水の流れや渦があったのでした。

 

そう考えると、今は、今ある流れに身を任せて
スイスイと泳ぎだすことができそうでなんだか嬉しくなってきます。

暑さ厳しい夏、
しばらくマグロになってみようかと思っております。

 

 

 


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