いちだ&さかねの往復書簡 vol10 単純にすることって大事

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この往復書簡も、10回目となりました。
ひっそりとやりとりを交わしている小さな特集ですが、
最近、出会う人に「あの、坂根さんとのやりとりを読むと、
坂根さん、頑張れ〜って思っちゃうんです」とか
「自分が言われているようで、勉強になります」とか
嬉しい感想をいただくことが多くなりました。

私が、どんなに辛辣なことを書いても
ちゃんと受け止めて、次の質問を送ってくれる坂根さんは、
本当に素直でガッツがある人です。

一緒に仕事をしていますが、どんどん文章も上手くなって、素晴らしい!
これからも、私たちのやりとりを、暖かく見守ってくださいませ。

では、10回目を始めます。

 

一田さま

vol9で教えていただいた、「リアリティ」は「いかに真実か」とは違う……。
今まで、そんなことは考えたこともありませんでした。

私はいつも、キャッチやリードを考える時は、
ひたすらに、取材をまとめたノートと何時間でも向き合っていました。
頭はたえずうつむき、取材先の方からいただいた言葉の中で、
なにか「いちばん核となる原石」はないかと、宝探しでもするかのように
文字の追っていたように思います。

 

やっぱり、どこまでも、「いかに真実であるか」に、固執していたんです。
でも、ようやく思考の根本が分かりました。
絵本のように、読者のイメージを豊かに広げていくことができたら……。
できる、できないかは別として、
これからは、上をむいて、頭の中に景色を描いていこうと思っています。

 

 

さて、次の質問です。

 

先月発売されたインテリア誌「暮らしのまんなか vol.28」はリニューアル第一号でした。
今までの号と比べ、写真がよりダイナミックに視界に入ってくるような、
エネルギーを誌面から感じました。

 

以前一田さんは、ご自身の著書「私らしく働くこと」の中で、
ページ作りに関して、あるときは「基本をはずす」ことの必要性をおっしゃっていました。
「手にとめて」もらうために、いかに読者を「ハッ」とさせるかが大事なんだと。

 

そして、一田さんのページ作りにはいつも「余白」があると思うんです。
写真にしても、1ページに多くを当て込みすぎない……。
私は取材すると、「あれも聞いたし、これも聞いたし…」と
つい写真を目いっぱいのせようとしてしまいます。
どこかで潔く削っていく覚悟が必要だなと、常々感じているのですが、
そんなビジュアルの作り方について教えてください。

 

 

坂根さん

写真の使い方や、ビジュアルのデザインは、デザイナーさんの力が大きいです。
今回の「暮らしのまんなか」のリニューアルも、
巻頭特集で、「ヨリ」と「ヒキ」の写真2枚をダイナミックに組み合わせる、
というアイデアは、デザイナーの引田大さんが教えてくださいました。

「暮らしのおへそ」の余白のあるデザインは、アートディレクターの
「なかよし図工室」の成澤豪さんと宏美さんの力です。

素晴らしいデザイナーさんとの出会いは、雑誌を作る上で
言いたいことを、ビジュアル化して読者に伝えてくれる
なくてはならない力です。

 

私たち、ライターや編集者は、そのデザイナーさんに
「こうしたい」という思いを、「デザインコンテ」というラフで伝えます。
カメラマンさんに撮ってもらった写真は膨大な数になります。
そのどれを選び、どのページに配置するか……。
それを考えるのが仕事です。

実は、私はこのラフを描くという作業が大好きです。
取材に行く前は、まだぼんやりと霞の向こうにあるような
取材先の景色が、現実に像を結んで、1枚1枚の写真として上がってくる……。
それを、ページごとに並べて、どう伝えようか……と考える。
時には、「これ、いい写真だな〜」という1枚を大きく使いたくて、
ガラリと構成を変えてしまうこともあります。

構成を考える上で、一番大事にしているのは、
読んでくださる方が、このページを広げて、最初に見た時にどう感じるかな?
と想像すること。
本当はこの写真を大きくした方が、テーマに沿っているし、よくわかる。
でも、こっちの力のある写真の方が、きっと心にハッと届くはず……。
と言った具合です。

それから、もう一つは「単純」にすること。
取材では、あれも聞いて、これも聞いて、とたくさんの情報を仕入れます。
でも、伝えることが複雑であればあるほど、読者の心に届くまでに時間がかかります。
なので、私は何に一番感動したのか、このページで何を伝えたいのか、
と考えるわけです。
そうすると、一番はこれ、次はあれ、
と順番が見えてきます。

本当はあっちもこっちも伝えたい。
でも、一番はどれだったかな?と自分を整理することで、
「捨てる」勇気を持つことができます。

さらに、大きくする写真を選びながら、頭の片一方でそれにつけるキャッチを
考えています。
特に雑誌は、写真と文章の組み合わせで、読者をだんだん引き込み、
本文を読んでもらえるように、道筋をつけていくもの。
写真だけではわからない。
文章だけでも伝わらない。
二つが一つになってこそ立ち上がる世界を考えていくことは、
本当に楽しい作業だと思います。

コンテを書きながら、「そっか、私はこういうことが伝えたかったのか」
と自分で自分を発見することもしばしば。

坂根さんにも、そんな楽しみを味わってもらえればなあと思います。

 


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