「子育ては“できなかった”ことが“できること”になっていくこと」吉田穂波さんvol.5

産婦人科医で4女2男のお母さんでもある吉田穂波さんにお話を伺っています。

前回は、親としての役割を、子どもに何かしてあげる「Doing」から、
そこに在るという「Being」に変えることにしたというお話でした。

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ー”ただ在る”ってどういうことでしょうか?

「子どもは伸びゆくもの。
私もかつて、“子どもは親が責任を持って育て上げなければならない”と思っていました。

でも、親はただそこにいるだけでいい。
子どもが伸びるのを応援し、見守っているのがいい。
と、教えてもらった詩があります。

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「子どもについて」 Karlil Gibran:レバノン出身の詩人・画家・彫刻家。

あなたは弓であり、
そしてあなたの子どもらは、
生きた矢としてあなたの手から放たれる。
弓ひくあなたの手にこそ喜びあれと。

「ハリール・ジブラーンの詩 (角川文庫、神谷美恵子訳))より抜粋
~~

あなたは新しい命を産みだし、次の世代に命をつないだ、
それだけでも尊いことなのだから、
責任感や罪悪感を持たなくてもいいのよ。
母親がハッピーなら子供もハッピーなのよ。

国内外で、多くの先輩ママたちにこう教えられてから、肩の荷が降りたんです」。

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私もこの言葉に胸を打たれました。
子どもは社会からの大事な預かりもので、自分のものではない。
別々の人格であることを認め、
親はただ側で子どもの育つ力を信じて見守っていればいいのかもしれません。

そして、子育て中は家事が思うようにできないことに罪悪感を抱く必要はないのだと、
とても励まされました。

ヘルパーさんでなくても、パパや子どもに頼ってもいいのかもしれません
(“家事育”の必要があるかもしれませんが)。

“子育ては私にしかできない”という思い込みがなかったか、
冷静に日常のタスクを解きほぐして、整理してみたいと思いました。

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最後に「吉田さんにとって子育てって何ですか?」と聞いてみたくなりました。

「子育ての醍醐味は“どんな自分探しよりも本当の自分に出会えること”なんじゃないかと思います。
子育てを通して、新しい自分を発見することができました。

色々な人に助けてもらった分、人の役に立つ人間になりたいと思いましたし、
後世に残るような仕事をしたいと思うようになりました。

そして、長期的・俯瞰的な視点を身につけることができました。
今思えば、独身時代は自分の考えに凝り固まっていて視野が狭かったと思います。

子育てを通して、忍耐力とコミュニケーション力が鍛えられ、
見返りを求めない優しさを身につけることができました。

地域の中で協力しながら課題を解決していく“地域力”や
ネットワーキング力も身につけられたと思います」。

「子育ては自分がしたいことをダウンサイジング(規模を小さく)することではなくて、
逆に自分のやりたい気持ちがパワーアップすること」と語る吉田さん。

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私たちは、心のどこかで、子育てによってさまざまな動きが制限されると思いがちです。
でも、子育てで試行錯誤する中で、これまでなかった発想が生まれたり、
一人で頑張らずに周りの協力を仰ぐことができるようになったりと、
実は子育てを通して、より自分の可能性が広がっていくのかもしれません。

私は“仕事と育児の両立”とか“仕事と育児のバランス”ということに捉われすぎていたのかも、
と思いました。

きっと、両立やバランスを取ることが目的ではないはず。

家族皆が幸せになる選択をしていけばいい、
そう思ったらすぅっと胸が軽くなりパワーが湧いてきました。

そして、どんな環境でも、人生を創っていくのは、
自分の考え方と物事の捉え方次第であることを、吉田さんの姿を見て学びました。

子育ては“できなかった”ことが“できること”になっていくこと。

子育てを通して違う価値観の人たちと出会って、新たな価値観を知り、
その人たちと手と手を取り合って、新しい社会を創っていくこと。
そう思ったら、ワクワクしてきました。

吉田さんの話を伺って、早速、“重要度・緊急度”のタスク表を作成して、
自分が何を重要だと思うか、人に任せられることはないか、
改めて自分の時間の使い方を見直したことはいうまでもありません。

人には、一人一人与えられた環境や制限があるからこそ、
いろいろな気づきや発見があるのかもしれません。

私も、最初から“どうせ、私にはできない”と諦めず、
自分で自分の人生を創造していきたいと思いました。

(吉田穂波さんプロフィール)
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産婦人科医師・医師博士・公衆衛生学修士。4女2男の母。
三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院で臨床研修の後、
2004年名古屋大学大学院医学系研究科で医学博士号を取得。
その後、ドイツとイギリスで産婦人科・総合診療の臨床研修を行う。
帰国後、産婦人科医療と総合医療の視点を併せ持つ医師として、
女性総合外来の立ち上げに携わる。
2008年、ハーバード公衆衛生大学院に留学し、公衆衛生学修士号を取得。
同大学院のリサーチフェローとして少子化対策に関する政策研究に取り組む。
2011年の東日本大震災で産婦人科医として被災地の妊産婦や新生児の救護に携わったのち、
国立保健医療科学院、神奈川県をはじめとした官公庁や多数の自治体で母子保健領域の公共政策に携わり、
2019年より神奈川県立保健福祉大学イノベーション研究科で教鞭をとる。
著書に、『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)、
『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』(株式会社あさ出版)ほか多数。

(吉田穂波さんをもっと知りたい方は)

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(左)「『辛いのに頼れない』が消える本」(株式会社あさ出版)吉田穂波著
“受援力”を身につけるための具体的な方法について説明されています。
今のあなたの”受援力スコア”も分かる!

(右)「『時間がない』から、なんでもできる!」(サンマーク出版)吉田穂波著
3人目のお子さんが生まれてすぐアメリカのハーバードに留学した時の体験談を元に、
日々の仕事や家事、育児に追われ、時間がないなかでいかにやりたいことをやるか、
そしてやり続けるかについて工夫が満載。吉田さんの時間整理術について知りたい方はこちら!

 


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