ノマディカ主宰 南加奈子さん vol5

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昨年、南さんはロンドンからドイツ、そしてスイスのバーゼルへと旅をしたそうです。
バーゼルは、世界最大のアートフェアが行われ、今第一線で活躍している作家さんたちを
一度に見ることができるそう。

「マネイジメントしているアーティストの手助けをするために、私自身が何を習得
できていたらいいだろう?と考えます。
美大を出ているわけではないので、専門書や国内外のサイト、SNSから知識を得たり、
外へと学びに出かけたり。
芸術は、過去、現在、未来の生きる全ての分野に関わることなので、
特に私のような立場は、幅広い知識と経験が必要だと痛感しています。
そのおかげで無趣味な私が少し人間らしくいられる気がします(笑)」

 

でも、アートの世界は果てしなく広く、深いものです。
「砂漠に種を拾いに行くみたいですね」と聞いてみました。

「確かにそうですね。
でも、いろんなものを読んだり、見たりしていると
より自分がどこに惹かれているのかが、わかりますね。
私の場合は好みが明確な分、遠出することが必要なのかもしれません(笑)」

 

それにしても、どうすれば、アーティストひとりひとりのよさを引き出すことが
できるのでしょうか?

「私はまだまだ日々試行錯誤ですけど、
ひとつ言えるのは、『対話をする』ってことだと思っています。
ものづくりをやっている人は、作るのは上手なんですけど、
その作品を発表したい理由や、伝えたいこと、自分の立ち位置など、
作品以前のことも含めて、言語化するのが難しいよう。
だから、たわいもないことをなるべくみんなと話しますね。
定期的に事務所にみんなで集まって情報交換をしたり、ちょっとしたお題を出して
意見を言い合ったり。

私にとってベストなのは、自分で気づいてもらうってこと。
話しながら、私自身も何かを発見することが多いんです。
そして、正解はひとつだけとは限らないので、個々の特性や状況、目的によって
何を選ぶか本人に委ねたり、こちらが提案したり……。
できる限りよい場所へと相手に添いながら進みたい」

 

自分の作品を作る、というのは想像をはるかに超えて大変なことです。
だって、それをやらなくても、誰にも文句は言われなし、
やっても、それがお金に結びつくとは限らないのですから……。
それでもやる、という力は、唯一、自分が「やりたい」と思うことから生まれます。

「何の得にもならないようであっても、苦しいことをやる。
それは、将来的にはきっとその人のプラスになると思います。
もし、今は写真家で、将来は料理人になったり、エンジニアになったりと、
方向を変えて、着地点が違ってきたとしても、やったことは必ず体力になると思います。

よく話をするのですが、
写真を撮るのって一瞬です。
でも、24時間何を考えて生きているかが必ず写真に出ると思っています。
だから、作品作り以外の、雑誌の仕事をしている時間にも
家族でご飯を食べている時間にも、常に何かに小さな疑問や想いを持って生きているかどうかで
ヒントやアイデアや答えをもらえているはず。

結構私、厳しいんですよ」と笑う南さん。

 

_mg_4483 撮影 近藤沙菜

 

最後に南さんご自身のことについて伺ってみました。

今は女性7人でシェアハウスで暮らしているそうです。
「それぞれ個室があって、キッチンリビングは浴室、トイレは共有。
私は仕事場と職場が近い方がいいので、自動的に都心に住むことになりました。
インテリアなども好きなんですが、今は封印。
仕事=暮らしです」

そんな南さんは、お金を稼ぐことや、いい家に住むことはまったく望んでいないよう。
南さんにとっての幸せってなんですか?と聞いてみました。

「誰かの役にたてることですね。
そのためには、お金も必要なのでバランスは大事ですが、原動力はすべてその想いから。
中学生のときに、一瞬にして人の心を変えられる表現者の力を知ってしまいました。
たまたま最初に出会ったとき、それがミュージシャンだったけれど、
写真家でも役者でもジャンルは問いません。
そんな表現者の役にたちたい……。

今でもライブに行くと、観客の姿を見るのが好きなんです(笑)
ミュージシャンが幸せそうに歌うと、必ず観客も幸せな顔になる……。そしてその逆も。
どちらかが与えるだけじゃない。
表現をする人がいて、それに共鳴する人がいる。
その中で幸せが立ち上がっていく瞬間に立ち会えるのが、私の幸せかな」

 

人の幸せをとことん願う南さんは、ちっともワガママンではないのかも?
でも……。
「私ね、ストライクゾーンが極端に狭いんです」と南さん。

好きな絵は限られているし、
「この人じゃなくちゃ」と思える人も決して多くない……。

全身全霊でその人を支えたいと願うことができるのは、
自分に嘘がないときだけ……。

 

そこには、研ぎ澄まされた純度の高いマガママンの姿がありました。

 

 

 

 

 

 


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